地球と言う星はボロボロだった。 何度も何度も繰り返された戦争で、人も地球もボロボロになった。 ほんの僅か、生き残った人達は地球を捨てた。 宛ても無いのに空へと飛んだ。 ほんの僅か、地球に残った人は、地球の手当てを始めた。 もうボロボロで、人の手なんかに負えないのに。 人の手では、地球はどうにもならない。 だから人は、とんでもない時間をかけて 地球をどうにかできる「本」を造った。 とんでもない時間をかけて、たった一冊。 たった一冊の「本」は___ その本には地球の全てが書いてあった。 果てしなく広い地球のことを。 果てしなく長い歴史のことを。 そしてそこに住んでいたモノの記憶を。 いつの日か古く美しいその星を見ることができるように。 長い長い時が過ぎた。 地球はどうなったのか分からない。 少し綺麗になった気がする。 花も咲いているし、森もある。 生き物もいたるところに存在してる。 記憶の中の地球には程遠いけど、確かに地球は綺麗になった。 ___その本は一度も開かれることは無かった。 それからまた、ほんの少し時が過ぎて… 「あら?」 長い髪を二つに分けてリボンで結んでいる少女が、ふと気づく。 「どうかしましたか、パチュリー様」 髪の短い、黒いコウモリのような羽の生えた少女は、寝巻きのような服を着たその少女をそう呼んだ。 ここは幻想郷。 の湖を越えた場所に立つ紅魔館。 のさらに中に建っている図書館。 数億冊はあろうかという本の森。 ありとあらゆる本の行き着く先。 パチュリーと呼ばれた少女は、その図書館の本棚の一つを見上げていた。 「・・・小悪魔。ここにあった本・・・」 コウモリ羽の少女も寄ってきて同じところを見上げる。 皆、小悪魔としか呼ばないので小悪魔で定着してしまった。 「・・・無くなってますね」 「・・・」 「何か気になることでもあるんですか?」 「ええ、ちょっとね」 とは言うものの、ここにある本はほとんど価値の失われたものばかりである。 その中で、パチュリーが気にする本となれば・・・。 「それじゃ、よっぽどな本なんですね」 「別に。何の価値も無いけど」 「あれ?」 「何の価値も無い。 大昔の人達が、大昔のことと大昔の願いを書いた本」 「ふーん」 不意に後ろに人の気配が降りる。 こんな現れかたをするのは、この館の中では一人しかいない。 「咲夜。いきなり人の後ろにナイフ持って出てくるのはやめて。 これから暗殺されるみたいだから」 「ああ、すみません」 一応言うものの、ここのメイド長、十六夜咲夜は別に気にもしていないないようだ。 「でもナイフを持ってると落ち着くんですよ。 パチュリー様も持ってみます?この特注血糊付きナイフ、マイナスイオン付き。 最近銀が少ないから水銀で作ってみたんですけど、なかなか」 「いらない」 パチュリー様が差し出された怪しげなナイフを押し戻す。このナイフ好きにも困ったものだ。 パチュリー様の本好きもかなりの重症だが。 「紅茶の時間です。今日の貴重味は松の花ですわ」 「そう・・・行くわ。小悪魔、あとお願い」 そう言うと、パチュリー様は転移魔法を使って咲夜さんと共に消えてしまった。 「・・・」 誰もいなくなった図書館。 気が付くと、さっきの場所を見つめていた。 「大昔の人達の、大昔のこと」 そして、大昔の願い。 どの様な願いかは知らないけれど、そのように愛されて書かれた本は幸せだと、小悪魔は思った。 「ちょっと、出かけるわ」 「え?」 紅茶から戻ってきたパチュリーの第一声はそれで、そして反応もおおかた予想通りだった。 「な、なんでですか?」 「あの本」 「・・・ああ、例の大昔の」 「探しにいく」 「ええ?」 騒がしい。 まあ、滅多に外には出ないし。 それに、本が無くなっていてもわざわざ探しに行くことなんて、これまでしなかったし。 「ふえ~。やっぱり結構な本だったんですね」 「さあ?」 「あれれ」 「ただ・・・。 探しにいかないといけない。そう思っただけ」 たしかに、なんとなくそう思っただけなのだ。 「珍しいですね。そんなことでパチュリー様が外に出るなんて」 「そうね。直感で動くなんて、私らしくないわ」 私らしくない。なにか、別の力で動かされているような・・・。 と、突如空中から白い塊が落ちてきた。 「ひゃ」 小悪魔が驚いて声を上げる。 が、パチュリーにはそれが何なのかすぐに分かっていた。 分かっていたところで、驚かないわけではないけれど。 「ぱーちぇ。おそと、行くんだって?」 「ええ」 レミリア。子供姿の吸血鬼。ここの主。そして、パチュリーの友達。 「なんで?」 予想通りの質問。 「本が無くなったから、探しにいくの」 「ふーん」 レミリアは特に興味の無いような、そんな反応。これも予想通り。この館の人たちは単純。 「じゃあ、お土産もってきて」 「お土産?」 ちょっと予想外。 「ん。 パチェの選ぶお土産って見てみたい」 「・・・考えておくわ」 実際、この吸血鬼には大体何をあげても喜ぶのだけど。 そう頭では分かっていても悩むものは悩む。 「あと、夜までには帰ってきてー」 「?」 「今日、満月なんですよ」 小悪魔のフォロー。そういえば、そんな気もする。 悪魔なら満月は最高の夜なのだろうけど、窓の無い図書館に住む身では、あまり気にしない。 「ああ。・・・退屈なのね」 「そ」 ばさっと羽を広げ、レミリアがパチュリーの頭の上から離れる。 「力のあり余ってる夜にパチェがいないなんて、面白くないわ」 「じゃあ、行くわ。早くしないと夜になるし」 とりあえず、手近な本を持って扉へと向かう。 咲夜にナイフがあるように。私には本がある。 「いってらっしゃーい」 「気をつけて下さいね」 「・・・」 あんまり、見送られるのは慣れていないせいか気恥ずかしい。 紅魔館を出ると、眩しい昼の光が降っていた。 体を浮かせる。 ちょっと風でバランスを崩しかけたが(図書館の中は無風だし)、すぐに持ち直し、高度を上げる。 「とりあえず・・・黒いのかしら」 しょっちゅう図書館に来ては、本を盗んでいく(本人は借りたと言っているが)、魔法使いを思い浮かべた。 黒いのこと霧雨魔理沙の住む森に進路を向ける。 その時、ふと、目の端に白い月が映った気がした。 「え?」 再び、あたりを見回すが月などない。 「・・・満月?」 今宵は満月。 昼の月などあるわけがない。 「・・・満月ね」 パチュリーは、そう呟くと速度を上げた。 満月が、ここ十日ほど続いていることに、まだ誰も気付いていなかった。 |